WWA²

紺色のW

ただの帽子が、いつのまにか所属の記号になっていた

野球の話を聞くと、少しだけ心が疼くことがある。

熱心なファンというわけではない。
今も昔も、プロ野球そのものにはほとんど興味がない。

野球に関して、子どものころの記憶はあまりいいものではない。

小学生のころ、町内会か何かの行事で遠足に行くことになった。
帽子をかぶってくることが条件だった。

遠足の数日前、親に連れられて帽子を買いに行ったのだと思う。

帽子売り場には、野球チームの帽子が並んでいた。
私はそのころ、野球にまったく興味がなかった。

だから、ただ見た目で選んだ。

紺色に、白い「W」のマークがついた帽子だった。

そのときは、それがどこのチームのものなのかも知らなかった。

遠足の日、集合場所に行って、少しだけ妙な感じがした。

周りの子どもたちがかぶっている帽子が、どれもよく似ていたからだ。

黄色と黒の配色。
それが阪神タイガースの帽子だということは、さすがに分かった。

自分の帽子だけが、少し違っていた。

どこに行ったのかは覚えていない。
ただ、電車で移動したことだけは覚えている。

ガラガラの車両の中で、子どもたちは自然とまとまって座っていた。
その少し離れたところに、一人で座っている自分がいた。

なんで外れているのかは、よくわからなかった。
理由も思い当たらなかった。

ただ、こちらから入っていこうとも思わなかった。

帽子のせいだということは、なんとなくわかっていた。

電車の中で一人座っていると、引率の大人が近づいてきた。
たぶん、一人だけぽつんといることに気を使ったのだろう。

「君だけ大洋ホエールズの帽子をかぶってるけど、ファンなの?」

よくわからなかったので、首を振って「ううん」と答えた。

その人は何人かの選手の名前を挙げてきたが、
そのどれにも首を振るだけだった。

取りつく島もないと思ったのだろう。
その人は、やがて離れていった。

私にとって帽子は、ただの帽子だった。
遠足に必要だから買っただけのものだった。

でも、周りにとってはそうではなかったのだと思う。

話は変わるが、面倒見のいい親戚のおじさんがいた。
その人は阪神ファンだった。

社会人になったら野球の話は絶対に出るから、
話せるようになっておきなさいと、よく言われた。

私はそれを真面目に受け取って、
野球中継を観ようとした。

でも、興味のわかないものは、どうやっても頭に入ってこなかった。
まあ、当然だと思う。

プロ野球には、あまりいい思い出がない。
試合が延長になって、見たかった番組が見られなかったりした。
子どもの私にとっては、それも理由の一つだった。

野球の話そのものというより、
それを当然のように共有している感じが、少し苦手だったのかもしれない。

野球の話ができないと困ると思っていたけれど、
実際に大人になってみると、案外そうでもなかった。

いまはそれなりに満足した生活をしている。
かぶっている帽子で色分けされることもなく、
仕事ができるかどうかで見られる。

いい時代になったのだと思う。

たぶん、あれは野球の話ではなかった。